大杉にある文学  ( 参考 大屋町史史料編  )

         大屋谷の俳諧

          本章は、江戸時代に大屋谷に残された俳諧史料を理解されやすいように、
          1・近世の寺社奉納俳諧、
          2・蓮華寺の俳諧と版木、
          3・大屋谷の句碑、
          4・観月楼句集、
          の四節に分けて解説し、大屋谷の俳諧文学の高さ、交流の深さなど江戸時代の人々の生
          活文化や経済の影響を深く掘り下げてみたい。たとえば寺社の行事や建築、交通と市場に
          よる情報交流、物質や新技術の導入などが上げられる。いずれにしろ大屋谷の江戸時代
          の俳諧は、各地域の交流を通じて高い文学性を有しているのは、当時最高の評者を京都の
          芭蕉堂欄更らに求めたこと、高い句料でも集まり、版木の印刷物により広く普及に努めた沙
          月や句碑建立した秋孝らのすぐれた大屋谷の俳諧指導者によるものである。
                                    ( 大屋町史史料編より抜粋 )

  大杉観音堂奉納俳諧

         大杉山大福寺は至徳年間(1384〜87)に開かれたという但馬西国観音霊場で大屋町唯一
         の第二十六番札所である。現在は宝暦4年(1754)再建の観音堂と鐘楼が残り、33年毎に
         本尊の開扉。大杉観音堂奉納発句は京都の芭蕉堂初代庵主高桑欄孝の評を得て寛政7年
         (1795)板額に墨書で奉納され、また版木に彫られて蓮華寺に保管されている。
                                     ( 大屋町史史料編より抜粋 )


               
                   大福寺                          鐘楼

                  
                                       奉納額


                 
           評者 欄更・執筆 西郭・願主 正水・協力?但吉井 □月  寛政八年丙年正月塑 とよめる

          

               但大杉 正水・正水母の句も載っている

    大屋には、宮本・天王社奉納発句奉納額、上山・坂益神社奉納句碑、筏・阿弥陀堂奉納俳諧集
    蓮華寺観音御宝前俳諧集等、又句碑が多数みられる。発句会も各地でそれぞれ開かれていた
    のでしょうか。夏梅の蓮華寺(沙月は蓮華寺住職)が中心となって、大屋の谷に俳諧を広めた。
    裕福な人達がお茶をたのしむように、大杉の人達も句会を開いて、季節をいとおしみ、わび・さび
    をたしなんでいたのでしうか。今でも、大杉の年配者には俳句を趣味にしている人が多数います。
    わたしも中学生の頃、母親を見てまねごとをしていました。
 


但州大杉観世音奉納発句会校引の分

             奉納額        大福寺・版木 蓮華寺所蔵
             洛東芭蕉堂     欄更先生評
             題   「 四季」   山川草木
             願主          大杉 正水
  秀逸    
 これほどに枯るけふにもありしかな            但夏梅     沙月
 水となる世話もうれしき糸瓜哉               京       哥堂
 夢殿のあとかたもなしすみれ草                       沙月
 日ぐらしや松にのこりし二日月               京       紫水
 川狩の罪かそへけり夏百日                 但竹田     皿茶
 世をいとふ灯見へてかれ柳                 但生野     竹也
 青海苔や海の底にも春の色                         沙月
 ゆうたちのふりととまりぬ原の松               生野      義風
 梅の香にしたしかりけり小隣哉                       竹也
 白茄子のよこれぬうちに散にけり             播岸田     亀有
 川岸やゆう日の柳合歓の花                播赤松     白画
 硯おく筵に桃の月夜かな                  京        文桂
 鶏頭はものうき茎のふとさかな                       皿茶
かれ萩の雪さへ置す起あかり               但和田山   一蛙 
 梅かかり静かなり人の面                           竹也
 花落て十日もはやしはつ茄子              但       淇竹
 ひともとは沢のながれやかきつばた           夏梅      兎月
 ちる花にそみつつ嵯峨の薪かり              夏梅      素月
 よはよはとうたふ声ありなつの山             竹田       桃立
 草刈の鎌入かぬるはな野かな               京        哥堂
 冬の梅にほふほとなる日南かな             但森垣     木似
 南天や一つふたつの秋の色                ヤナセ     寿硯
 夕日さすかたになだれて秋の山             竹田      西
 六尺の軒に五尺のあやめかな               竹田      仏舟
 またもとの瀬にはみちけり秋の水             大屋      木徒
 富士に似たと指さす雪の景色哉                       仏舟
 一ゑだは滝にうたるるさくらかな             大屋      餘更
 紅梅や産着仕立るまとのさき                       白画
 寂色のうつるなかれや崩れ梁              播神戸     民□
 朝まだき匂ひこぼしぬ池の蓮              但大屋     西郭
 傘たつるうちに散りけり芥子の花            蔵垣女     里機
 水かれて石のにほひや夏の川              ヤナセ      士口
 若草や輪かさり落とし井の辺               京        和水
 夏草は大かたしらぬ名なりけり              京          如薫
 古川や岩根岩根のつくつくし               但夏梅      井蛙
 野末から秋をよひくるすすき哉             播福野     好之
 うき草や雨の朝をさきおふせ              但生野     兎雪
 はつ秋やひとつあからむ唐辛                        淇竹
 投わたす板のひずみや川すすみ                      仏舟
 色と香にかざして帰るさくらかな                      仏舟
 板越し老いのきおいやころもかえ                     西
 わきさしに祖父もちそゆる菖蒲哉           竹田中町   若連中
 有りなしの日を奉れはつ茄子               ヤナセ    登
 たよりなき道にもさきしさくら哉              ハマサカ   弥山
 夏菊や風鈴さはるよしふすま               京       嘉情
 朝々や釣瓶に上るきりの花                        沙月
 硯かる家さへまれや山さくら                         紫水
 凍る夜やながるる川の音高し                        木徒
 葉柳や魚の飛かふふちのうへ                       嘉情
 一本の花の事たるいほり哉                 京      東白
 朝顔の咲き咲きちぢむあさ日かな                    弥山
 落葉つむ中にめだつや冬いちど                      餘更
 吹きこして舟にちりこむさくら哉                     梅文
 さっぱりときかへて見るやけふの菊                    横広
 麻かりてかわるや風のふきところ                   正水母
 □□□□□□□□□ (奉納額に追加)         但生野    □仙
 □□□□□□□□□ (奉納額に追加)        但大杉    正水
 其影は壁にうごくやたねふくべ                       淇竹
 むすび手の水もいとふや社若                       素硯
 うき草をなかせばもとの河瀬哉                       吐王
 寒菊のあはれこことの庵かな                       舜民
 分入れば草までにほへなつの山                     柳民
 露しげきままを折ばや草の花                       西
 河の瀬を越て聞きたしほととぎす                      瓢月
 夕立おまつ野千草の昼の色                        湖月
 春の瀬のなかれ次第やふちのなみ                    竹布
 石山や月に横たふ雁の声                          西郭
 夕立はすそのなりけり不二詣で                      西郭
 行行て峠にむかふあつさかな                        沙月
 秋風の道一筋や山のいろ                 播福野    歌柳
 音もなく香もなき川の涼みかな               但建屋    西星
 世わたりを川にまかせて鵜舟かな              吉井     洗耳
 宇治川や蛍見ながらふし見迄                       横香
 炉開やまだ寒菊の葉の青み                        西郭
 青柳に朝日のつたふ雫かな                和田山   五反
 手折来て里のはなしや寒椿                         西星
 一色に風のかほるや桑の畑                和田山   西華
 葉桜や猿の引あふ菅の傘                          沙月
 中々に狭き住居を夏の草                          西
 朝顔やねじれねじれてあすの花              竹田     虎渓
 濡橡に露こぼしたる菖蒲かな               和田山    克己
 涼しさや東雲あかき草の色                竹田      玉兎斉
 生きて見る心も涼し夏の菊                         登
 垣一重日向に青し春の草                  和田山   五反
 鶯を聞きつつ野辺に摘茶哉                 生野      兎雪
 更行や月見る顔に松の露                  蔵垣      松露
 芳野たつ暁寒し散みみじ                  京       自生
 能はててはかまたたむや宮の下                     文桂
 さわがしき山音やみてゆう時雨               但大森  賀々一
 白梅や在所に目立つ門かきへ               京       和水
 朝顔やかぎりの露のをしまるる               但八木    路全
 梅が香にそひて吹きけり朝嵐                        義風
 広橡にとづる牡丹や夕西日                         兎月
 山ふきや岩間をもるる水の音                蔵垣     松露
 瀬にかかる筏飛こす子鮎かな                        沙月
 うら関やすすきのうけの鑓しるし               京      吐月
 (追加)
 山寺の東雲ちかきさくらかな                 京      紫水
 風薫る山やたえせぬ念役力                         其鶴
 接待の釜にふきけり松の風                 評者     欄更
                        
  但吉井   □月
  □□□□□□□□□□□□□  執筆    西郭
  □□□□□□□□□□□□□  願主    正水

                      (奉納額に追加句)

     
 他の奉納額